抱っこや母乳育児の敵!その名は「腱鞘炎(けんしょうえん)」

皆さんは「腱鞘炎(けんしょうえん)」という言葉、よく使いませんか?
最近は鉛筆やペンで字を書く機会こそ減りましたが、仕事ではパソコンやレジ打ち、荷物運びなど、家ではスマホでネットサーフィン、メールにゲーム、現代人の手首や指先は休む暇がありません。
 

ましてや小さなお子さんを持つママは抱っこにおんぶ、毎日の炊事、洗濯に掃除など、指先に力のいる仕事だらけ。そう考えると誰もがいつ腱鞘炎になってもおかしくないと思いませんか?
 

敵を知ることで己を知れば百戦危うからず。
ということで抱っこの大敵、腱鞘炎について色々と調査してみました。
 

そもそも「腱鞘(けんしょう)」ってなに?

手は主な骨だけでも27個の骨からできており、そこに様々な筋肉が付随しています。
このたくさんの手の骨を筋肉により巧みに動かすことができるのは、それら骨と筋肉を結び付けている「腱」があるからです。
 

腱鞘(けんしょう:Tendon sheath)とは、手や足の腱のまわりを骨から離れないようにところどころバンドのように、ちょうど鞘(さや)、つまりパイプのように包み込んでいる部分のこと。
つまり、腱鞘(けんしょう)とは「腱の入れ物」という意味だったんです。
 

手足や指を曲げ伸ばしするときは「腱」が「腱鞘」の中を往復するように移動します。
その働きは、ちょうど、自転車やバイクのブレーキケーブルのワイヤーの周囲を覆うパイプ状の部分の働きに似ています。
 

もしこのパイプが無かったら、ワイヤーの中ほどが、いわば両端を近道するような位置に移動してしまいますので、せっかく筋肉により収縮した動きが反対側に伝わらなくなってしまいます。このさや状の腱鞘(けんしょう)がしっかり骨から離れないようになっているからこそ、腱が縮んだ時に、関節を動かす力がかかり十分に曲がるのです。
 


①主に母指を伸ばす働きをする腱
②主に母指を広げる働きをする腱
③腱鞘(けんしょう)
出典:日本整形外科学会
 

このように腱鞘(けんしょう)は手足や指を動かすのになくてはならないものなのです。
 

腱鞘炎(けんしょうえん)とは?

腱鞘炎とは、指の「腱鞘(けんしょう)」が何らかの原因で厚くなったり硬くなったりして、「腱鞘」とその中を動く「腱」がこすれ合い、炎症が起こって腱の動きがスムーズでなくなってしまいます
手首の親指側に「痛み」「腫れ」が現れ、親指を広げたり動かしたりするとこの場所に強い痛みが走ります。
さらに腱鞘炎が進行すると、指が伸びなくなって曲がったままになり、伸ばそうとするとバネのように急に伸びる「ばね指」と呼ばれる症状が出てきます。
 

出典:日本整形外科学会
 

実は、腱鞘炎を自分で簡単にチェックする方法があるんです。
「フィンケルシュタインテスト」といって、下の写真のように親指を小指側に引っぱったときに痛みが強くなる場合、腱鞘炎である可能性が高いです。
 

出典:日本整形外科学会
 

どんな人が腱鞘炎(けんしょうえん)になるの?

手首の腱鞘炎になる一番の原因は「手の使い過ぎ」です。
これまではピアニストや料理人など、「手を酷使する人」に多く発症していた手首の腱鞘炎が、ごく一般的な若者や主婦、サラリーマンにも拡大しています
仕事や家事など、日常生活に支障をきたしている人も少なくありません。
いま日本だけでなく、世界で「手首の痛み」を訴える人が増えているんです
 

抱っこにスマホにゲーム、まさに現代のパパ・ママは腱鞘を酷使!

現代生活に欠かせないスマートフォンやパソコン、時にはゲームもします。これらの操作が、手首に大きな負担を掛かけています。
また実は、腱鞘炎になる人の多くは女性で、「妊娠・出産期」にあたる20~30代、「更年期」にあたる50代が突出して多くみられるんです。これには女性ホルモンの影響があると考えられています。
ホルモンバランスが乱れることで腱がむくんでしまい、腱と腱鞘が過度にこすれて腱鞘炎を引き起こすことがあるようです。
また、ホルモンバランスの変化だけでなく、子どもを抱っこする時に親指を大きく開いて支えることが多いため、手首の腱鞘炎を起こしやすくなります。
 

腱鞘炎にならないために -予防と対策―

腱鞘炎の原因が「手首の使い過ぎ」なのですから、その逆「手首をなるべく使い過ぎない」ようにし、「安静にする」ことが大切です。
その具体的な方法についてご紹介します!
 

もんではいけません!

文字を書きすぎたりパソコン作業に集中し過ぎて痛みが出た時、子供の抱っこから解放された時に、ついつい手首を「もむ行為」をしてしまいますが、腱鞘炎の場合は逆効果
炎症した部分をもんでしまうと、患部へさらにダメージを与えてしまい、症状が悪化する可能性があります。
 

スマートフォンを使う時

ふだんスマートフォンを使う時、手のひらで握って親指で操作することが多いのではないでしょうか。とくに肩手の親指だけでスマートフォンを操作する時、親指には大きな負担がかかっています。
親指で操作をしている時に手首の痛みや違和感があるときは、人差し指での操作に変えましょう。いったん使用をやめて休憩することもおすすめです。
 


 

パソコンを使う時

キーボードの手前にタオルをある程度の高さになるように敷いて、その上に手首をのせて操作します。
親指を開く動きが小さくて済むようになり、腱の緊張が和らぎます。
キーボード用の低反発素材の手首クッションなども数多く発売していますので、それらを使用するのもよいと思います。
それでも腱鞘炎になってしまったら…
手の痛みを感じたら「整形外科」、「手外科(てげか)」の専門医がいる医療機関を受診されることをお勧めします。
腱鞘炎は炎症を抑える注射や、腱鞘の一部を切り開く手術により腱の動きを良くすることで治すことができます。
 

まとめ

若いころは授業や試験勉強でたくさん字を書いていても平気だったはずなのに、今ではちょっと字を書いただけでも指が痛い…、
長いメールや資料を作るために一日じゅうパソコンのキーボードを打ち続けていると、親指の付け根がとても疲れる…、
眠いからと抱っこをせがむ子供を背負いテーマパークを一日じゅう移動…、
「腱鞘炎」という言葉がしょっちゅう頭をよぎります。
ですが、恥ずかしい話、腱鞘炎は筋肉痛のヒドいものだとずっと思っていました。
ところが腱鞘炎は筋肉が疲労して痛む筋肉痛とは全く異なる病気だったのですね。
 

知っているようで知らなかった「腱鞘炎」。
ふだん目にすることのできない「腱鞘」というものを意識していただき、手の指にも気を配っていただけたらうれしいです。